水石にはいくつかの鑑賞ポイント・視点があります。
簡単に言うと、「水石における良い石の基準」です。
基準を意識して石を眺めることで、良さの感じ方や見方が広がり、石探し・水石鑑賞がますます楽しくなると思います。
過去の文献やさまざまなサイトを調べたところ、鑑賞ポイントについては文献や人によって異なる意見があることが分かりました。
なかでも「質・形・色」が優れていることは、古くから良い石に必要な要素であるといわれ、「三要素・三原則」として広く受け継がれてきました。
現在ではさらに「肌合(はだあい)」「時代(じだい)」の要素を加え、「水石の五大要素」という視点で見立てるのが、鑑賞の入り口として広く受け入れられています。
水石の五大要素は「質・形・色・肌合・時代」
現在の水石では、「質」「形」「色」の三大要素に、「肌合」「時代」を加えた「水石の五大要素」を基準とし、石の魅力・良し悪しを見極めることが一般的です。
*文献によっては「肌合」「時代」ではなく「線」や「肌」、「自然さ」「古色」と記載されているものもありましたが、新しい出版物に習うことにしました。
「質」に関して
「質(しつ)」とは石の硬さや密度、すなわち石質を指します。
一般的に「水石に適する石は硬いもの・緻密なものが良い」とされており、これは経年変化に強く、風化しにくいことが理由です。(ここで言う風化はいわゆる「崩れ」のことであり、「時代」とは別です)
長年にわたって形や肌合(はだあい)が保たれることは、水石の鑑賞において重要な要素と考えられています。
また、硬く緻密な石は手に取った際に適度な重量感があり、その「ずしり」とした感触も鑑賞者に好まれます。
ただし、宝石のように極端に硬い(例:ダイヤモンドのモース硬度10)石が必ずしも水石に適しているわけではありません。
水石においては、ある程度の硬さを持ちつつも、自然な摩耗や表面の変化が生じることで味わいが増すため、適度な硬度が求められます。
評価が高い石質の一例として、「ホルンフェルス」が挙げられます。
ホルンフェルスは熱変成作用によって形成された硬質な岩石であり、黒く梨地の肌を持つ名石が多いです。

代表的な産地として、加茂川や佐治川が知られています。
その他「輝緑凝灰岩(きりょくぎょうかいがん)」や「チャート」など、各産地において硬い石質が確認されています。
風化しやすい砂岩や軟質な石は経年変化により崩れやすいため、一般的には水石として評価されにくい傾向があります(もちろん、軟質な石でも名石が存在しますのでご安心ください)。
「形」に関して
「形(かたち)」という要素では、石の形状が自然の美しさを連想させ、「何らかの見どころ」を持っていることが重視されます。
見た目に関することなので、「質」よりも「形」の方が直感的に理解しやすい要素だと感じています。
実際、形に関しては幾つかの分類が確立されており、その分類に従って石を評価することが可能です。良い石を見分ける際に、誰にでも受け入れやすい要素でもあります。
また、形の評価には、「三面の法」という昔から伝わる有名な見方があります。
三面の法
「三面の法(三面の法則)」とは、吉村鋭治氏が提唱した水石の形の見方を説明・解説する法則で、石の形を評価する際の手本として多くの方が参考にしています。以下、引用を記載します。
石が三面の法にかなっているかどうかという点です。三面は石の前後、左右、底のことですが、この三面の調和が石の形をみる場合の原則になると思います。つまり、前と後、右と左がそれぞれ釣合がとれ、その上に前後、左右、底の三面が大きさ、形、厚さにおいて調和している石が好ましいということです。
~中略~
一例をあげますと、遠山石の前面に山裾がありながら、後面が切立っていては前後の釣合がとれません。やはり前面に対応する山裾が後面にもなければなりません。また、山の右端に強い張りがあれば、左端にもこれを受ける弱い張りが必要です。そして前後の山裾の広がりと左右の端が石の底の厚さと釣合っていれば、三面の法則にかなっていることになると思います。
村田憲司 編『水石』木耳社、1965年、12頁
上記は、遠山石を例に
- 前後:前後ともに幅があり、奥行きが感じられる。
- 左右:シンメトリーではなく、左右にバランスの取れた変化が必要。
- 底面:底は厚すぎず安定した据わりが求められる。
という「前後・左右・底面の3点(三面)のバランスと調和」が、良い形を判断するための基本的な考え方であると教えてくれています。
下記にて、水石における代表的な形を一覧にしてみました。よろしければご覧ください。
「色」に関して
「色(いろ)」は水石の印象を大きく左右する要素の一つです。
赤や黄などの特徴的な色合いを持つ色彩石もありますが、基本的には黒を中心とした、濃く深みのある落ち着いた色が好まれます。
特に黒い石は、水石において格式が高いとされ、最上を「真黒(まぐろ)」、次に「蒼黒(あおぐろ・そうこく)」、そして「灰黒(はいぐろ)」の順に評価されることが多いです。
黒い石は希少価値が高く、質感や風格が際立つため、古くから珍重されてきました。

一方で、白い石は一般的に評価が低いとされています。
これは、水石が「どっしりとした安定感」や「落ち着いた風格」を重視する美意識のもとに鑑賞されるため、白い石は視覚的に軽く見えてしまい、風格に欠けると考えられるからです。
実際、コンクリートのような無機質な白の水石は、展示会の動画や記念帳などでもほとんど見かけません。
また、砂岩系の石には白っぽいものが多く、それらは風化しやすく耐久性に劣ることも、評価が低い要因の一つと考えられます。(*「質の要素」参照)
なお、水石の色は光の加減や濡れた状態でも変化するため、飾る環境によって異なる表情を楽しむことができます。
特に、濡れた際に色が鮮やかに変化する「濡れ色現象」も、水石の魅力の一つです。
【追記】真黒や蒼黒色など、調べてみました。よろしければ下記「水石の色について」ページをご覧ください。
「肌合」に関して
「肌合(はだあい)」とは、水石の表面の質感や風合いを指します。
自然が作り出したものと、人の手による養石(世話をして育て、石の良さを引き出すこと)の影響を受けたものがあり、それぞれ独自の趣を持ちます。
例えば、川の流れによって削られた「川ずれ」や、風化や侵食によって生じた「けずれ」「穴」などは、自然の力によるものです。
一方、長年の手入れによって生じた「光沢」や、時を経たことで味わい深くなった「風合い・表面の変化」などは、養石の影響を受けたものといえます。
個人的にはこの「肌合」の要素が一番気に入っています。
川ずれなど自然が生み出した独特の石肌にふれると、偶然が生み出す芸術の妙を実感し、感動します。
肌合にはさまざまな種類があり、けずれや穴の開いた状態などにそれぞれ名称がついています。
代表的なものをいくつかご紹介します。
梨地肌(なしじはだ)

梨の皮のように細かな凹凸が均一に広がる肌合を指します。「梨地」という場合もあります。
特に硬質な石に見られ、光の当たり方によって繊細な陰影が生まれ、落ち着いた趣が感じられます。代表的な例として、硬質なホルンフェルス系の黒石があり、ここでは輝石や角閃石などの結晶が抜けた後に、小さな孔が開き、梨肌の特徴的な状態を作り出します。
ジャグレ

水石の表面に見られる流れるような凹凸、不規則に小さな「えぐれ」や「穴」が入り組んだ模様を指します。
この肌合は、特に硬質な石で発生し、長い年月をかけて風化や摩耗、あるいは石内部の結晶構造によって自然に現れることが多いです。
龍眼(りゅうがん)

石の表面に白い石英や石灰質が貫入(別の物質が岩の内部に入り込んで、表面に模様を作る現象)している状態を指します。
その特徴は、表面に白い結晶が点在し特定の模様や白い滝のような線生み出す点にあります。
他にも肌合の名称があります。詳しくは「水石の肌合(はだあい)の種類」のページをご覧ください。
「時代」に関して
「時代(じだい)」とは、長い時間の経過によって生まれる「風格」や「趣」を指し、「時代がつく」といった形で使われます。
「持ち込み」と呼ばれることもあり、風雨や流水にさらされて角が取れ肌合いが滑らかになった石は、「時代を感じさせる」・「持ち込みがいい」などと評価されます。
また、水石の「時代」は人の手による「養石」によっても育まれます。
例えば、「長年にわたり風雨にさらす」「定期的に水を注ぐ」などの手入れを施すことで、石の表面に自然な変化が生まれ、独特の味わいが加わります。
この過程で生まれる落ち着いた様子や色合いは「古色(こしょく)」と呼ばれ、古色がある石は風格があり、芸術性の高い水石として評価されています。
実際に展示会の動画や記念帳を見ると、言葉では表現しづらい「古びた趣」を感じることが多いです。
言い換えれば「何とも言えない味」であり、すぐに手に入るものではなく、時間をかけて育まれたものだと感じています。
誰でも気軽に始められることが水石の魅力ですが、この「時代」のように、手軽さからは想像できない奥深さを持っていることも、さらに魅力的だと思います。
「養石」と「時代」に関して、下記ページにまとめました。よろしければご覧ください。




